過去受賞作品

2011 シンポジウム

日時:2011年2月22日(火)15:00~18:00 終了しました
会場:リビングデザインセンターOZONE 3F パークタワーホール

パネルディスカッション

パネルディスカッション

2011年2月22日、住まいの環境デザイン・アワード2011シンポジウムが開催されました。
「ストック時代の"つながる"住環境-ひと・暮らし・住空間の新しい関係を読み解く-」と題したパネルディスカッションの概要をご紹介します。

パネリスト 東 利恵(建築家/東 環境・建築研究所代表)
小嶋 一浩(建築家/東京理科大学教授)
宿谷 昌則(建築環境学者/東京都市大学教授)
千葉 学(建築家 東京大学大学院准教授)
池田 俊雄(東京ガス株式会社 営業第二事業部長)
コーディネーター 澤井 聖一(株式会社エクスナレッジ 代表取締役社長)

澤井この20年で、年間の新築件数は170万戸から80万戸に、市場規模は26兆円から14兆円へとほぼ半減しました。一方、リフォームやリノベーションの市場は8兆円にまで膨らんでいます。
日本には5700万戸以上の住宅在庫がありますが、その14%に当たる800万戸が空き家です。
ひとが住んでいる4900万戸も、そのうち2500万戸が1980年代から90年代までのもので、次の世代に引き継いでいくためには、何らかのリフォーム、あるいはリノベーションが必要な時期を迎えつつあります。
昨年の審査総評で、千葉さんは「リノベーションに面白い作品がある半面、ゼロからコントロールできる新築にリアリティーを持ちにくくなっている」とコメントされましたね。

千葉活用すべきストックがたくさんあるなかで、古い住宅に新しい価値を見出したり、コンテクストを別な形で読み替えたりした作品に新鮮さを感じました。名もない住宅に、別の人がかかわることで、新築にはない新しい空間や造形がつくり出されていました。
そもそも環境というのは、そう簡単に人間がコントロールできるものではない。そういうコントロール不能な他者とどう向き合うか、ということが環境問題の本質だと思うのですが、リノベーションにおいては、その側面がより強く浮かびあがると感じたわけです。

澤井小嶋さんは、もっと新鮮な新築を見たいとも。
 
 
 

小嶋つくるからには、それ相応の住宅をつくるべきであって、大量に供給して、20年かそこらで建て替えるような時代ではないことは、誰もが理解しているはずです。昨年は、リノベーションに興味を引かれるものが多い半面、新築はなぜこうも通り一遍の住宅が多いのかと、少しフラストレーションを感じました。しかし、今回は、新築にも数多くの優れた作品が見られたので安心しています。

住宅の実質的価値を上げるリノベーション

澤井リノベーションに新しい価値を見出すという意味で、宿谷さんはどのようなご意見を?
 
 

宿谷リフォームやリノベーションは、既存住宅の実質的な価値を高めることもできます。例えば、広さ100m2の住宅を5000万円で購入したとします。それが断熱性の低い住宅だと、100m2あっても、実際、冬に使うのは、暖房の効いた50m2とか60m2に限られていることが多いと思います。つまり、購入価格を坪単価にすると50万円なのに、実際の生活空間で換算すると80万円とか100万円にもなってしまう。
そうした住宅を、きちんと断熱改修して、四季を通して100m2を使えるようにすれば、日常的に使える実質的な空間を広げられることになります。
建物の内側から断熱しても、実質的な空間は大きくなるわけです。
これからのリノベーションでは、そういうアイデアもどんどん出てきて欲しいですね。

澤井東さんの実家である「塔の家」(1966年)は、冬は寒いですか?
 
 
 

この17~18年の間に、ちょこちょこと手は入れていますが、温熱環境という数値だけで評価すればマイナス面が大きいと思います。ただ、住空間としては、それを上回る魅力があります。
私は、温泉地の再生でよく地方に行きますが、客も来なくなり、買い手も付かないような大型旅館が、その街全体の活気も吸い取っていく負のスパイラルが、各地で見られます。
似たようなことが、早晩、住宅地でも起きるのではないかと危惧しています。その意味では、住宅のリノベーションは社会的にも重要で、今までのような手法だけでは対応できないとも思います。
今回、入賞した「東向日の住宅」では、かつての大家族から一人暮らしになったとき、住宅の一部だけを生活に合わせてリノベーションしています。これに象徴されるように、何か新しい手法を考えなければいけない。そんな時代を迎えつつあるのだと思います。

澤井住まい手にとって、エネルギーは消費することが大前提でしたが、リフォーム、リノベーションという視点から、エネルギーのパラダイムシフトの可能性はありますか?
 

池田東京ガスの関連会社「リビングデザインセンターOZONE」でも、リフォームやリノベーションの住宅相談が非常に増えていて、そういう流れが来ていることを実感しています。
住宅というと、従来はもっぱらエネルギーを消費するばかりでしたが、これからは自然エネルギーなども活用しながら、エネルギーをつくり出すという方向に向かうでしょう。
しかも、それは新築住宅に限らず、既存の住宅でも考えていかなければならないと思います。さらには、住宅単独だけではなく、日本全体、あるいは地球全体とのつながりも踏まえながら、どのようにエネルギーと向き合い、限られた資源を活用して、次の世代に引き継いでいくのか、という視点が大切であると思います。

住宅はインテリアだけではない

澤井ひと口に環境といっても、光や水、風、あるいは周辺環境や家族関係など、様々な要素があります。今回、グランプリの「石神井の家Pioggia e Sole」は、それらを非常に高いレベルで融合し具現化していますが、誰もがこういう家をつくるのは難しいのでは?

宿谷個人的には、素直に忠実に家づくりに臨めばできることだと思います。環境というと、とかく低炭素だとか、断熱とかいう話になりがちですが、「ひとが暮らす空間」という原点に立ち返れば、家づくりの本質がぶれることはないはずです。
例えば、住空間デザイン最優秀賞の「FLAT」の住まい手の方は、「夏や冬が来るたびに、新しい発見や暮らし方に気付いて楽しい」と話されていました。こういうコメントが聞けるのは、設計者と住まい手とが一緒に、「ひとが暮らす空間」の本質を追求したからだと思います。

澤井環境要素は定量化する必要がありますが、空間デザインは個人の経験値によるもので、定量化はできません。では、ひとの生活に役立つ環境デザインとはどのようなものですか?
 

小嶋住宅は、インテリアだけでつながった空間だという概念が当たり前のように考えられていますが、必ずしもそうではない。内外の空間をプレーンに扱った分棟型の家は世界中にあって、現代の日本でも、安藤忠雄さんの「住吉の長屋」(1976年)や、西沢立衛さんの「森山邸」(2005年)などがあります。
要するに、光や風、雨などの流れているものをどうとらえて、どのように住空間や環境を閉じたり、開いたりしていくか。そこが大切なのだと思います。

千葉今回、受賞した「FLAT」の住まい手が、夏や冬を楽しめているのは、冷暖房で室内を完全にコントロールしているからではないと、僕は理解しました。夏ならば、暑さと同時に、暑さをしのぐ木陰の心地よさのようなものが、暮らしのなかで同時に感じられるからではないでしょうか。
RC壁の一部をあえて結露させる「所沢の家」にしても、それが実験的な意味を持つ以上に、日々の自然環境とのつながりを感じる媒介になっているからこそ魅力的な気がします。
そういう環境との対話こそが、本来の環境を考えた家づくりではないかと思います。

「FLAT」の場合、全体の構成からディテ-ルまでミニマルに、繊細につくられているうえ、住まい手と住宅とが見事につながっています。アプローチと中庭、リビング、テラスを吹き抜ける風、冬の日差しでほんのりとした床を、快適で魅力的だと考える住まい手だから成り立っています。
 

池田様々な生活シーンがありながら、「FLAT」にはエアコンが一台しかありません。住まい手の暮らし方はもとより、エネルギーを最小限とする設計がなされている。変化する自然エネルギーの活用も含め、そういうところをバックアップしていくことが、私たちエネルギー事業者にとっても大切なことだと思いました。

分断の連鎖を生む「閉じる」

澤井住まい手と近隣住民との関係性や、住宅の敷地と周辺地域との関係性を新たに見出すことも環境デザインには大切ですよね。
 
 

小嶋「石神井の家Pioggia e Sole」は、夏に太陽光発電パネルを冷やす散水を、北側の壁面にまで流すことで、周辺環境もよくしていると言えます。
現代の住宅は、自分の敷地ばかりを考えてきたけれども、それが周りにとって不愉快だったケースもあったはずです。これからの住宅設計は、いったん敷地境界線を打ち消すところからスタートするのが基本なのかもしれません。

宿谷単に、環境を「室内環境」ととらえる傾向が今もありますが、外を考えることも非常に大切です。例えば、住宅を開こうとしても、隣家の室外機の熱風が入ってきてしまう、ということがよくあって、それならば閉じたほうがいいという考え方になる。
しかし、避けたいものは「閉じて」防ぐという価値観一辺倒になってしまうと、その人自身もどんどん「閉じる」方向に行ってしまう。これは、建築に限らず、社会全般に通じることで、「閉じる」は攻撃性を育てる危険すらはらんでいると、僕は思っています。
逆に、それぞれが「開く」ことができるように外側をデザインしていくと、互いに心地よい風が抜ける住まいにできるし、隣人との関係の風通しもよくなるはずです。

千葉閉じることは、容易にできてしまうからこそ、住空間は基本的に開かれなければいけないと考えていますが、その開き方に、地域性が反映されるべきなのだと思います。
特に、東京のような乱雑に見える街ではなおさら、環境との関わりを強く意識したほうがいい。そうすることで、その乱雑さのなかに潜む環境の秩序を発見していくことが必要だろうし、建築にはそれができると思っています。

エネルギー・ネットワークの時代へ

ただ、最近の住宅を見ていると、若い層を中心に、建築家も建て主も、デザインの質を大切にする一方で、土地固有の環境は意外に軽視する傾向を感じます。自然の豊かな広々とした敷地に、都市型の閉じた空間をつくって、都市のような暮らしをしたがっている。
土地のコンテクストとか、ランドスケープを拠り所にしてきた私たちにとって、これはショックな出来事です。私たちがつくってきた住文化に対する次の世代の人たちの答えが、そろそろ出ようとしていて、私自身の住宅に対するアプローチを変えなければいけないのではないかとも思っているほどです。

小嶋豊かな時代になると、選択肢が多様化して、どうしても乱雑さが増してしまう。建築家にとっては、自由が拡大して面白いとも言えるけれども、どうも「環境」というものだけは、自分一人ではハンドリングできない難しさがあります。みんながきちんと取り組んでいくと、いい街ができるのか、それともやはり多様な解答が混ざった乱雑な街になるのか。その辺りが今後どうなっていくのかは関心があります。

澤井つながりという点では、エネルギーそのものが個々の住宅と密接につながるようになってきています。
 
 

池田住戸内での各種エネルギーの融通は、すでに普及し始めています。次のステップとしては、マンション内でのネットワークが考えられます。
さらには、街などの面的エリアでのネットワーク構築です。住宅だけでなく、学校や病院、商業施設など、エネルギーの使い方が異なる施設間でのネットワーク構築の研究開発を進めていきたいと考えています。
これを「スマート・エネルギー・ネットワーク」と、私たちは呼んでいますが、すでに少しずつ検証を始めていますので、早く皆さんにもご紹介できればと思います。