過去受賞作品

2013 シンポジウム

日時:2013年2月18日(月)15:00~18:00 終了しました
会場:リビングデザインセンターOZONE 3F パークタワーホール

パネルディスカッション

パネルディスカッション

2013年2月18日、住まいの環境デザイン・アワード2013シンポジウムが開催されました。
「実例から読み解く環境デザインの視点」と題したパネルディスカッションの概要をご紹介します。

パネリスト
(審査員)
東 利恵(建築家/東 環境・建築研究所代表)
小嶋 一浩(建築家/横浜国立大学大学院教授)
宿谷 昌則(建築環境学者/東京都市大学教授)
千葉 学(建築家 東京大学大学院准教授)
池田 俊雄(東京ガス株式会社 営業第二事業部長)
パネリスト
(受賞者)
グランプリ受賞者 末光 弘和・末光 陽子(建築家/ SUEP.)
環境デザイン最優秀賞受賞者 篠原 聡子(建築家/空間研究所)
住空間デザイン最優秀賞受賞者 谷尻 誠(建築家/ suppose design office)
コーディネーター 安達 功(日経BP社 建設局プロデューサー)

安達今日は、上位3作品の受賞者の方にいろいろと聞きながら、各作品について掘り下げていきたいと思います。まず、グランプリの「向日居」を設計した末光さんに聞きます。普段、設計プロセスのなかで、どの辺りに最も気を遣っていますか。

末光弘環境デザインというと、がんじがらめの設備仕様を考えがちですが、私たちは結果として立ち現れるものを重要視しています。 快適性や心地よさというものを身体感覚でとらえ、どこまで建築がそこに近付けるかが大切なのであって、設備システムで訴えるようなものにはしたくないと思っています。 もう一つ、つねに意識しているのは、自然エネルギーの利用を、空間やプランニング、構造体などと融合するだけでなく、意識的に視覚化することです。向日居の場合、梁をT型の洗練されたデザインにすることも可能でした。しかし、あえてY型にすることで、そこに太陽熱が貯まることを暗示しています。 万が一、今後、太陽光パネルの設置義務付けのようなことが起これば、それをデザインに取り込むために建築家はかなり悩むはずです。だから、既製の太陽光パネルを載せなくても、答えは見出せることを、きちんと提示していきたい。その意味でも、設備的な環境システムや構造体、空間のつくり方を一体化させて解くことに努めています。

末光陽私たちは、自然エネルギーと機械的環境とをどう使っていくのが最適なのかを、 プロジェクトごとに議論します。 向日居は太陽熱でしたが、これまでには井戸水や緑も使ってきました。
 

千葉以前から、末光さんは自然エネルギーを強く意識していますが、何がそういう関心を持たせるようになったのですか?


末光弘私たちは、東京と九州に事務所があって、頻繁に地方に通います。地方で設計していると、東京の自然が、飼い馴らされた脆弱なものに見えてきます。それに対して、地方では野性味あふれる自然が待っています。対照的な二つの自然を見ているうちに、東京の脆弱な自然を相手にした設計では通用しないのではないかという疑問と同時に、野性味のある地方の自然をどう設計に取り込もうかという関心が膨らんできました。

小嶋現地審査で向日居を見たとき、オープンな普遍性のようなものを感じました。それにしても、個人住宅であれほどの実験をしながら設計していくのは、かなり大変じゃないですか。
 
 

末光弘いつも違うことをやりたくなる性分で……。ただ、環境デザインの領域には、まだデータが存在しないものがたくさんあります。「この程度までやれば、このくらいの太陽熱を取れるだろう」と、身体感覚ではわかっても、それを裏付ける客観的なデータがないのです。例えば、屋根材を検討する際、色が黒いほど熱が貯まることまではわかるけれど、色の濃さと採れる熱との関係を示すデータは存在しません。建て主への説明も必要なので、結局、自分たちで実験して、検証しながら設計を進めているのが現状です。

宿谷実際、向日居では、数字で現しきれない快適性を獲得していると思わせる光景を目にしました。真冬に窓を開け放しにした部屋で、子どもたちがカーペットに転がって楽しそうに遊んでいたのです。僕の経験からすると、あのときの天井や壁、床の放射温度は30~31℃あるはずです。窓を開け放していたから、室内の空気温度はせいぜい10~15℃程度でしょう。この温度の関係は、暖房器具で空気を暖めるだけではつくれません。今回、考案したシステムが放射温度の高い環境をつくっているから、窓を開け放っても、心地よいぬくもり感があるわけです。この光景は、今回のシステムが、生き物にとって非常に快適な環境をつくり出していることを示す一場面と言えます。 人間にとって本当に快適な環境というのは、がちがちの設備システムだけでつくれるものではありません。意匠、設備、構造などを別々に考えるのではなく、今回のように統合するなかで生み出していくのが本当の姿です。そもそも「設備」という字は、「設け備える」と書くのだから、機械の話ではないのです。もう一度、そういう原点に戻って考えていく意味を、この向日居は教えていると思います。

エネルギー効率も高いシェアハウス

安達次に、環境デザイン最優秀賞の「SHAREyaraicho」について聞いていきます。シェアハウスは運営プログラムが成否の鍵を握りますが、今回、設計者が自ら運営にまで踏み込んでいったのはなぜですか。

篠原私は建築設計と同時に、以前から住宅の調査も続けています。そのなかで、築150年の古民家を男女7人でシェアして暮らす 「松陰コモンズ」(2010年3月終了)を見る機会があり、とても面白いと思いました。 以来、既存住宅の活用ではなく、ビルディングタイプとしてシェアハウスをつくったらどうなるのかという点に興味があり、SHAREyaraichoを設計しました。 これまでの調査で、シェアハウスに必要な条件はわかっていました。例えば、外部に開かれたスペースが不可欠なことです。家族ではない人たちが集まって暮らすとき、家の内部だけに閉じると、必ず硬直状態に陥ります。今回は、1階の作業スペースのように、地域の人たちや友人を招いてイベントなども開けるオープンスペースを設けました。あとは、当初はあまり空間を仕切らず、住みながらデザインされていけばいいと柔軟に考えました。現在は、男女7人がここで暮らしています。

1階の作業スペースのほかにも、バーコーナーやリビングといったオープンスペースや、建物内を縦横に貫くすき間も取ってあります。家族が住む場合、そうした空間は単なる廊下やリビングで終わってしまうけれど、シェアハウスになると見え方が変わって、イメージが膨らむように感じました。普通の住宅として使ったら、一人ひとりが個室に閉じこもりがちになるのに、シェアハウスだとオープンスペースに出てくるようになる。その辺りは、運営というソフトにも関わると思いますが、ハード面でも意識しましたか。

篠原私はこの家は家族でも住めると思っていたのですが、いまのお話を聞いて、家族だとバラバラになるかもしれないと気付きました。家族の場合、主に主婦が家のなかのハンドリングをすることになります。それがシェアハウスだと、みんなで分担して掃除などの管理をしていくので、オープンスペースにも応分の責任を持つことになります。 オープンスペースも一種類ではなく、みんなが集まったり、一人でいられたりと、いろんなレベルのものを用意しました。今後、実際の住まわれ方を見ながら、ハードとソフトとでどこまでやればいいのかを見付けていければいいと思っています。

安達シェアハウスならではのエネルギーの効率利用も見られたそうですね。



池田今回は、シェアハウスにおけるエネファームの運転状況にも興味を持ってお邪魔したのですが、とても効率的な運転がされていて驚きました。現地にある操作パネルを見たところ、一般的な戸建住宅よりも長時間にわたって発電していたのです。当初、エネファームの運用方法についてはどう考えていたのですか。

篠原正直なところ、利用効率までは考えていませんでした。さきほど7人の住まい手に応分の責任があると言いましたが、結果としてエネファームは8人目の住人になっているような気がします。つまり、7人がエネファームの機嫌もうかがいながら生活しているのです。お湯はちゃんと貯まっているかな、今月はどのくらい発電したかなといったように。

池田シェアして暮らすと、エネルギーの使い方が分散されて発電効率が上がるというのは、新鮮な発見でした。現地で使い方をアドバイスしたら、みんなで「もっと工夫してみよう」という意欲を共有して持たれたことも、シェアハウスならでは反応だろうと感じました。

変化の余地を残した“未完成”で完成

安達谷尻さん、お待たせしました。住空間デザイン最優秀賞の「沼袋の集合住宅」のような空間構成は、冒険のようなところもあると思いますが、オーナーへの説明も含め、どんなプロセスでつくっていったのですか。

谷尻僕のなかでは、ごく普通のことをやったまでで、オーナーにもスムーズに受け入れられました。住宅では普通、部屋に名前が付けられ、機能が固定されます。でも、 例えば縁側という空間は、廊下のようでもあるし、そこで食事を摂ればダイニングにもなります。どんな部屋にもなるし、どんな部屋にもならないかもしれない。今回は、賃貸住宅のバルコニーについて、そのようなことを考えました。従来は、エアコンの室外機置き場か、モノ干し場に使われる程度で、部屋としてカウントされず、生活の豊かさにつながっていません。そこで、バルコニーの概念を残しつつ、部屋でもあるような状況のほうが、住む人にはいいだろうと思ったわけです。

小嶋以前、住宅内部を白黒に塗り分けてみる提案をしたことがあります。黒は、機能の決まっている空間、白は固定された機能がなく、何にでも使える空間です。すると、伝統的な家はわりと真っ白に近くなります。一つの畳の間でも、布団を敷けば寝室になり、食卓を置けばダイニングになるからです。一方、現代住宅のプランは、かなり黒く塗りつぶされます。 機能を整理して、黒に塗れる部屋をつくり込むと、人は部屋のなかにどんどんモノを出していくようになります。逆に、何にでも使えそうな部屋を用意すると、モノが溢れてくるのを微妙にコントロールできる。その意味で、ラフな白と、きれいな黒とのコントラストが付いた住宅のほうが、暮らしは豊かになるだろうと思うところがあります。今回の沼袋の集合住宅は、その辺りのバランスがうまく取れていると感じました。

今回、谷尻さんは「八木の家」で住空間デザイン優秀賞も受賞されています。沼袋の集合住宅も、八木の家も、建物の形や外観のテクスチャーは、わりと荒々しくしています。一方、内部はきれいな打放しコンクリートで仕上げて、昔の土間のように何でも使えそうな空間になっている。その辺りには、どんな考えがあるのですか。

谷尻僕はわりと若いうちに独立して、かなりの数を設計する機会に恵まれたこともあって、早いうちに自分が思い描いた通りの建築をつくれるようになりました。それは喜ばしいことですが、一方で、建築が自分の想像を超えたところに行かないとまずいのではないか、と思うようになりました。そこで、マテリアルの表現や使い方も含めて、完成というレベルから少し戻すような感覚で、余白を残して完成させてはどうかと思ったのです。自分が想定しない“化学反応”によって建築が育っていくことを期待しているところがあります。

千葉谷尻さんの考え方には共感することが多くあります。コントロールしにくい経年変化を、あらかじめ許容している沼袋の集合住宅を見たとき、僕は「都市のインフラ」を意識しました。日本では、住宅を都市インフラと位置付ける感覚はまだありません。でも、欧米では何百年も使い続けられる住宅が普通にあって、道路や橋などと同じような都市の基盤になっています。これからの日本も、そう向かわざるを得ないところがあって、そのときつくる建築は、自ずと地域性や気候といったローカルな環境に寄り添っていくことになるだろうと思いました。

エネファームが建築に溶け込む可能性も

安達いま日本には5800万戸の住宅がありますが、そのうち空き家が800万戸にも上ります。ストック活用の意味でも、住宅は都市インフラだという視点は重要になりそうです。

千葉都市インフラを意識するとき、環境デザイン優秀賞の「くらくの家~農・食・住を伝える暮らし~」は、非常に興味深いプロジェクトです。建築のデザイン以前に、都市に残された貴重な農地を媒介にして、都市の住宅や暮らし方を問い直しています。農地も都市のインフラでもあり、そこに都市住民をつなげていった取り組みは評価に値します。

安達既存住宅のストック活用の手本となるような作品もありました。



小嶋環境デザイン優秀賞の「駒沢公園の家」は、築34年のごくありふれた住宅が、「ここまで化けるのか」と感心するほど切れ味の鋭いリノベーション事例です。社会で価値が共有されている住宅の改修事例はたくさんありますが、今回のように、見向きもされないような住宅をダイナミックに再生した取り組みには、大きな意義があります。こういうストックを資源としてとらえたら、日本は住宅の資源大国になるでしょう。

入賞の「岡上の家」は、駒沢公園の家とほぼ同じくらいの年数を経た住宅ですが、対照的な変化を見せています。増築を重ねて育った家と、時間をかけて成長した大木とが一つの環境として溶け合って、いまが一番幸せなのではないかという関係ができ上がっています。変化の手本とも言えるもので、今回、受賞した八木の家も、30年後にこういう幸せな家になって欲しいと思いました。

安達東日本大震災から2年になりますが、今回の応募作品を通して、エネルギーに対する考え方に変化は読み取れましたか。


池田敷地の環境や、家族の要望などを読み取りつつ、自然エネルギーを最大限に生かそうと試みた住宅が数多く見られました。住空間デザイン優秀賞の「戸田邸」は、防犯や眺望確保という要望に応えて建物を宙に浮かせたうえ、通風や採光も確保しています。密集市街地にある「ろじのさき」(東京ガス賞)は対照的で、四方を囲まれた敷地で、最大限に日差しや風を取り込める工夫を凝らしていました。 ベターリビング ブルー&グリーン賞(新築)の「桜風の家(さくらかぜのいえ)」の受賞者は、昨年の環境デザイン最優秀賞「風道の家(かざみちのいえ)」と同じ設計チームが、輻射冷暖房などをさらに進化させた住宅を見せてくれました。私たちエネルギー会社も、こうした提案性の高いオリジナルのシステムにも対応して、快適な空間づくりのお手伝いをしていく必要を実感しました。

安達2005年から日本は人口減少が始まり、明らかにパラダイムは転換しています。これからの時代に、設計者は環境デザインで何を目指せばいいでしょうか。


宿谷これからの建築外皮は、生き物の身体を意識するようになる可能性があります。私たちの身体を構成する細胞は、建築の外皮に応用できそうな機能を持っています。細胞の中にある「ミトコンドリア」は、超小型の発電所のようなもので、「ATP(アデノシン三りん酸)」という物質をつくり出して、筋肉を動かしたり、神経細胞内のポンプを動かしたりしています。つまり、エネファームを超小型にしたような熱電供給の機能を、ミトコンドリアは持っているわけです。 だとすると、エネファームのようなシステムは、単体の設備機器からもっと進化して、建物に融合させていく可能性があるのではないかと思えてきます。おそらく、この発想に間違いはないと思うので、これからみなさんと一緒に知恵を絞っていきたいと考えています。

安達最後に壮大な提案も出ました。これから家づくりの参考にしていただければと思います。ご静聴ありがとうございました。