過去受賞作品

2014シンポジウム 開催報告

日時:2014年2月17日(月)15:00~18:00 終了しました
会場:リビングデザインセンターOZONE 3F パークタワーホール

パネルディスカッション

パネルディスカッション

2014年2月17日、住まいの環境デザイン・アワード2014シンポジウムが開催されました。
「実例から読み解く環境デザインの視座」と題したパネルディスカッションの概要をご紹介します。

パネリスト
(審査員)
東 利恵(建築家/東 環境・建築研究所代表)
小嶋 一浩(建築家/横浜国立大学大学院教授)
宿谷 昌則(建築環境学者/東京都市大学教授)
千葉 学(建築家/東京大学大学院教授)
小宮 健司(東京ガス株式会社 営業第二事業部長)
パネリスト
(受賞者)
グランプリ受賞者 鈴木 亜生(ARAY Architecture)
住空間デザイン最優秀賞受賞者 村梶 招子+村梶 直人(ハルナツアーキ) 安原 幹(SALHAUS)
コーディネーター 安達 功(日経BP社 建設局プロデューサー)

安達今年の審査会は、例年にも増して白熱した議論が展開されました。そこに垣間見えたのは、日本も成熟社会を迎えて価値観が多様化しているということです。
今、日本では人口の減少と同時に、世帯構成が大きく変わり始めています。1980年頃は、標準世帯と言われる夫婦と子ども2人の4人家族が圧倒的な多数派でした。それが単身世帯に逆転されたのが2010年です。今後は、高齢者の単身、一般の単身、夫婦、その他の世帯が同程度の割合になります。世帯構成だけを見ても多様化していき、当然、価値観の多様化も進みます。そのため、ひと口に環境デザインと言っても、価値観によって様々な視点を見出すことができます。今回の審査が白熱したのも、多様化してきた価値観のもとで提案される環境デザインの評価が、一筋縄ではいかなくなってきたことの一つの現れではないでしょうか。
そこで今日のパネルディスカッションでは、今回の審査で見えた環境デザインのキーワードとも言える「建て主との協働」、「エネルギーを賢く生かす」、「地域とのつながり」という3つの切り口で進めていきたいと思います。まず、建て主の協働という点では、グランプリの「SHIRASU」は、まさにそれなしではありえないプロジェクトだと思います。現地を訪問した東さんと小宮さんは、設計者と建て主との関係をどう感じましたか。

この住宅は、現地審査でにわかに評価が上がりました。建物自体のクオリティはもとより、建て主の住みこなし方に共感するところが大きかったからです。それは、応募資料の図面からは全く予想できないものでした。例えば、図面中のLDKには、整然とダイニングテーブルや椅子、ソファなどの配置が描かれていました。ところが、実際には、建て主はそうした"枠"を取り払い、その時々に応じて空間全体を自由に使っているのです。例えば、その日、眠るのに最も快適な場所を探して、家族全員が川の字になって眠るといったように。そうした住まい方の自由度を許容できるのは、設計者とのよい関係があったからだと思います。

小宮私も、建て主の家族と設計者との仲が非常によいことを実感しました。そうでなければ、シラスを内外壁に使うなんて、とてもできなかったと思います。それにしても、シラスブロックの壁がうまくいくという勝算はあったのですか?万が一、失敗したらどうするつもりでしたか。

鈴木実は、シラスブロックは舗装材としては最近、製品化されていて、一定の性能は分かっていました。建築に求められる性能は未知数でしたが、地元の舗装ブロックメーカーが非常に協力的で、こちらから頼む前に工場でモックアップをつくってくれたほどです。工務店もとても意欲的で、みんなで協力しながら試験データを取ったり、施工法を考えたりしました。

安達とても幸せな関係のなかで家づくりが進んだようですが、そういう関係を引き寄せる秘訣はありますか?  
 
 

鈴木やはり、建て主がしっかりとした生活観を持っていたからだと思います。エネルギーに頼りすぎない生活という要望はありましたが、それ以前に生活観を象徴するのが、「われわれ人間は、自然に対しては後釜にすぎない」という建て主の言葉でした。長い時間をかけて鹿児島の地層を築いてきたシラスに着目したのも、その言葉に依るところが大きかったですね。しかも、鹿児島の人たちは郷土愛が強いので、シラスを生かすという提案に、工務店やメーカーの強い結束ができたように思います。

普遍的な特異点を持つ上位3作品

安達住空間デザイン最優秀賞の「villa921」も、建て主との信頼関係がにじみ出るような作品です。現地をご覧になった小嶋さんはどんな印象を受けましたか?
 
 

小嶋今回の上位3作品は、そこでしか達成できない特異点をしっかりと掘り込んでいると思いました。それも、それぞれが方法論としては普遍性を持った特異点です。
この「villa921」も、実際に現地を訪ねて話を聞くと、ここでしか達成できない特異点をきちんと見つけ出していることが分かりました。ただ、そのためには、かなり現地に通って、建て主の暮らしを読み込まないといけないはずですが、今回はどのように進めていったのですか。

村梶(直)私は以前、別の仕事で1年ほどを沖縄の久米島で過ごしたとき、本土とは比べ物にならない台風の猛威を体験して、沖縄の自然環境を実感しました。その後、また別の仕事で西表島に滞在していたとき知り合ったのが「villa921」の建て主です。今回の設計では、彼から西表島の魅力や暮らし方をいろいろと教えてもらいましたが、それを設計に生かす背景には、以前に自分が体験した久米島での生活も生きたのだろうと思います。

村梶(招)実は、建て主夫妻に子どもができたのと同時期に、私自身も出産を経験したので、こういうところで子育てをしたいという思いも共有していたように思います。近所の子どもたちが訪ねて来て、広いテラスや開放的なリビングで一生に遊んでいるとか、そういう暮らしのシーンも建物として表現したいと考えました。

職住一体に見えた生活の豊かさ

安達「SHIRASU」にも「villa921」にも共通するのは、優れた提案を引き出すために、建て主との協働を通した下地づくりがされていることだと思います。もう一つの住空間デザイン最優秀賞の「扇屋旅館」も共通するものがありそうですが、千葉さんは現地を見学してどんな印象を持ちましたか?

千葉旅館という職場と住居が一緒にあることで、ある意味で、これからの暮らしのあり方を見せていると思いました。これまで何十年もの間、日本では家と言えば戸建住宅を意味して、その器のなかで生活が完結するようにつくられてもきました。でも、扇屋旅館を見ると、家族が自宅を出て、旅館の側でくつろいでいたりして、職住が一緒にあることが生活を豊かにしていると感じました。地域にとっても、オーナーの顔が見える快適な拠点になっていて、地域再生のモデルになると思いました。その辺りは設計中から意図していたのですか?

安原実は、自分たちでも終わってみるまで、どうなるのか分からないところがありました。最初に訪問したときは、長年の増改築と老朽化で、途方に暮れるばかりでした。ただ、バックヤードのようになっていた中庭を生かせば何かができそうだという感触は持ちました。実際にでき上がってみると、けっこう贅沢な中庭で、新築だったらあれほどの空間をつくる余裕は持てません。リノベーションのだからこそできたプロジェクトだと思います。
リノベーションという意味では、増改築を重ねてきたムラだらけの既存建物だったので、そのムラを一つ一つ読み解きながらやっていったら、この最終形になったという感じです。

千葉とかく建築家の作品には、「こんなことを表現したい」というものが前面に出てきがちです。でも、このプロジェクトは、既存の状態にあるムラの一つ一つに対処しつつ、全体として居心地のいい空間にしている。余計な主張をせず、サラリとやっているのが、妙に大人びていて憎たらしいほど見事だと思いました。

安達地域につなげるという発想は、建て主とのやりとりのなかから出てきたのですか?
 
 

安原建て主にはよく、地元で食事や飲みに連れていってもらいました。すると、昼間の街中は人が少ないのに、そういうところにはけっこう地元の同年代の人たちが集まっているんです。そういう光景を見て、「あ、これを引き出せたらいいな」と思い、地域の人が集まるような中庭にしようと思いました。

エアコンより大切な「ラジコン」

安達今日、登壇はしてもらっていないのですが、環境デザイン優秀賞の「DONUT」も、建て主の考え方に刺激を受けた作品だと聞いています。
 
 

宿谷東日本大震災のとき、建て主は仕事の関係で東北地方に住んでいて、灯油の入手にも苦労するなどエネルギーのあり方を考え直すような経験をしていて、そのことが設計の原点にあったと聞きました。
この建物で注目して欲しいのは、現地審査で訪ねた12月初旬に、中庭に面した開口部を開け放っても寒さを感じなかったことです。なぜかと言うと、しっかりと屋根断熱をしているので、天井の表面温度が上がっていて、窓を開け放ったとしても、しばらくは寒さを感じず快適に過ごせるのです。きちんと断熱をして放射環境を整えれば、熱的に空間を開くことができることを、この住宅は示しています。
グランプリの「SHIRASU」も放射環境ができていると考えられます。建て主の子どもたちは、「初めは、夏にエアコンなしでは大変だと思ったけれど実際はなくても涼しい」と話していました。それは、シラスブロックで覆われた内壁の表面温度がそれなりに抑えられているから、心地よいひんやり感が得られているのです。実際の温度が25℃とか26℃まで下がっているわけではないはずです。
私たちはエアコンという言葉を何気なく使っていますが、実は大切なのは「ラジコン」、つまり放射(radiation)環境のコントロールなのです。放射と空気とはきちんと分けて考えなければなりません。今日、会場に来られている人たちにも、是非、その辺りにチャレンジして欲しいと思います。

小宮住宅の分野でも、トータルの一次エネルギー消費量を減らしていくための新しい省エネ基準が2013年10月に施行されました。今回の応募作品でも、太陽光や太陽熱などの再生可能エネルギーを活用する取り組みは数多く見られました。ただ、過密な都市住宅では限界もあります。そのとき、燃料電池などのコージェネレーションによる発電設備も非常に有効な創エネの手法になります。今回はそのような作品は多くはありませんでしたが、今後は積極的に組み込んだ作品にも期待したいですね。

安達議論は尽きませんが、モノからヒトに寄り添う時代へと転換していく成熟社会の家づくりのアプローチの一端を垣間見ることができたと思います。最後に、今回のアワードの全体講評を千葉さんにお願いします。
 

千葉今年の現地審査で感じたのは、建て主の意識の高さでした。エネルギーに対する考え方や、本当の快適さとは何なのかということを、どこかで見聞きした知識ではなく、自らの経験をもとに皮膚感覚で身に付けていて、リアリティのある示唆に富んだ話を聞くことができました。また、それに対して建築家が誠実に応えていることが非常に印象的でした。
僕は以前、サーフィンをやっていて、海のことはかなり分かったという実感があります。それは、サーフボードという自然にアクセスする道具があったからで、建築も同じ側面を持っています。建築を介して、その地域の自然などに触れるようになり、環境に対する一人一人の意識を育てていくわけです。建築の原点として当たり前のことですが、今回の審査はその原点を清々しく見る機会になり、これからの住宅にも大いに希望を持てると感じました。