2020シンポジウム 開催報告

シンポジウム
作品総評に見る「住まいの環境デザイン」

人と環境と住空間の真の融合を目指して
都市の住まいと環境をめぐる 住宅実施コンペティション

2020年2月3日、住まいの環境デザイン・アワード2020 ~首都圏~ シンポジウムを開催しました。
「人と環境と住空間の真の融合を目指して―― 都市の住まいと環境をめぐる 住宅実施コンペティション」と題し、グランプリ1作品、 準グランプリ1作品の受賞者によるプレゼンテーションと、審査員による講評およびパネルディスカッションを行いました。

〈審査員〉
※敬称略、50音順
東 利恵(建築家/東 環境・建築研究所 代表取締役)
宿谷昌則(建築環境学者/東京都市大学名誉教授)
末光弘和(建築家/SUEP.代表取締役)
千葉 学(建築家/東京大学大学院教授)
〈受賞者〉 グランプリ受賞作  :「K2 house」下吹越武人(A.A.E.)
準グランプリ受賞作品:「欅の音terrace」永井雅子・根岸龍介・若林拓哉(つばめ舎建築設計)
            藤沢百合( スタジオ伝伝)
〈聞き手〉 塚本文雄(リビングデザインセンターOZONE館長)

作品プレゼンテーション&講評

グランプリ受賞作品

「K2 house」

下吹越武人(A.A.E.)

作品プレゼンテーション

グランプリに選出していただき光栄です。
私の自邸であるこの「K2 house」の設計に際しては、大きく3つのポイントがありました。
1つめが、「〈ニワ〉をつくる」ということでした。これまでマンションで暮らしていましたので、自邸をつくるときには庭をつくりたいと以前から漠然と思っていました。庭をつくることで家を外部に開放することが容易になるだけでなく、特に都心部に住む中で地域のコミュニティに接続するきっかけとして庭が大きく機能するのではないかと思っていました。ですから生活のメインのスペースを1階に持ってくることは最初から決めて いました。
2つめに三角形の敷地に対しどうするか。いろいろ検討した結果、この敷地形状に合わせて三角形の平面で考えていくことに落ち着きました。
3つめは架構を考えることでしたが、前面道路が非常に狭くて、どうやって施工しようかと当初から心配していました。それで、最も部材を少なくした構法にすれば部材の搬入時間が少なくて済むと考えたのです。
その3つの条件を重ね合わせながら全体の構成を考えていきました。真ん中の四角いスペースに生活の基本的な部分を集約すると3方向に三角形の隙間ができ、これを〈ニワ〉と呼び、それを考えながら住宅を考えていくという方向性をとりました。
真北のニワは安定した天空光が入ってくるので、空に対して開くことも十分できます。問題は東側のニワで、目の前の狭小道路には駅に向かう人々が常に往来し、特に朝夕は非常に多くの人が通り過ぎるような場所です。そこに対して開くとプライバシーを確保するのが難しく、ここは最後まで考えたところです。一方、三角形の構成にはトラス効果があり、3つの三角形で真ん中の四角を持ち上げて支える構法にすることによって中に一切柱が出てこない架構を、構造家の佐藤淳さんに相談しながらつくっていきました。結局四角形の各頂点と、三角形の頂点、合計7つの柱だけで支えるように進めていきましたが、どうしても道路側がプライバシーを守りながら、どのように開くかという矛盾に対してうまくいかず、最終的に三角形のボリュームの一部を切り取って、隙間を空けて外部空間にすることでプランを成立させました。そうするとこの部分の梁も切ることになりますが、なくしても十分に支えられることがわかりました。
敷地にはもう1つ風の問題がありました。この敷地の南と西に木造密集地域が広がっていますが、その東側は大型再開発が行われていて、ビル風が深刻な場所です。それがどのように影響を及ぼすかCFD解析を行って確認すると再開発の大通りは強い風が吹きますが、木造密集地域に入るととても心地よい風に変わることがわかりました。そうするとこの風のネットワークの中にどう住宅を接続するかが、居心地にとても大きく影響します。これに対して三角形を切り取った外部空間が強い風に対しての制風板のような機能を果たして、中に緩やかな風を引き込むことがわかりました。
1階平面の真ん中にある四角いスペースのリビングの部分は下を650mm掘り下げています。将来的に生活環境が変わることも予想して、後から水回りを更新できるように下げました。2階には寝室、クローゼット、水回りがあります。西と北側の三角形の吹抜けの上部は熱だまりとして機能させていますが、換気を促すために穴を開けています。
外観は、見る方向によっていろいろ形が変化するような形態です。切り取った部分に舗石を置いて、外から中に入れるようにしています。
内部は基本的には大きなワンルーム空間で、光がいろいろな濃度をもって広がっています。中央のリビングから見ると、明るいところから暗いところ、さらにまた明るいところというようにさまざまな光のムラが同時に存在し、これが朝、昼、夕など1日の中でも変わってきます。立つ場所や時間帯によって多様性が生まれる住空間です。

講評

最初の印象は、どこがどうなっているのかがわかりにくかったのですが、説明をうかがい、そこで時間を過ごしているうちに、さまざまな試みを感覚的かつ適材適所にやっていることがだんだんわかってきました。家族の関係性の中で生まれる場所相互の対話、時間の移ろいとともに交わされる環境と生活との対話、そういうことがごく自然になされ、結果的に豊かな場が生まれていることが何よりも魅力的でした。

説明ではとても理詰めに聞こえましたが、実際に行くと空間が豊かで、光の入り方も刻々と変わっていく非常に快適な家で、理屈でつくられた感じはありませんでした。おそらく環境面を取っても、持続性についても、全てのポイントに対して全てきちんと回答ができているような、経験を積んだ建築家が熟練した設計をされた住宅だと思いました。

3か月くらいの期間でつくられたと聞いて、それがすごく良い方向にいったような気がします。例えば料理でもレシピを見ながらゆっくり時間を掛けてつくられたものもおいしいですが、ぱっと作ったものの味付けが絶妙でおいしいという良さもあります。この家には後者のような印象があって、そこに設計者の熟練を感じました。光の採り入れ方なども、内部なのにまるで外のような快適さがあって、それが理詰めだけだとは感じなくて、こういう自邸って素晴らしいと感じました。

実際に空間の質を自分の身体で体験しながらいろいろとお話をうかがっている間に、光や熱・空気の問題について機械設備に頼るのではなくて、敷地にもともと備わっている性質をとても上手に読み解いていることがわかり、感心しました。

準グランプリ受賞作品

「欅の音terrace」

永井雅子・根岸龍介・若林拓哉(つばめ舎建築設計)
藤沢百合(スタジオ伝伝)

作品プレゼンテーション

「欅の音terrace」は、築38年の2階建アパートをリノベーションしたナリワイ型の賃貸住宅です。「環境」の捉え方には地域のコミュニケーションも含まれていると思います。多くの集合住宅では、住人と地域とのコミュニケーションの溝が問題になっていますが、ここでもやはり同じような問題が発生し、また老朽化による空室が増え、賃貸募集をしても築年数の古さと駅から徒歩9分という条件から、現地案内にも至らないような状況でした。
オーナー自身も年齢とともに管理が大変になり、長く無理なく続けられ自分たちもわくわくして関われる建物にしたいという相談を受けました。そこで、①集合住宅と地域の溝を埋める、②オーナーが入居者と自然に関われる仕組み、③入居者が自分たちで管理できる形、をポイントに計画を考えていきました。
私は郡上八幡と東京で、設計と不動産の仕事をしています。郡上八幡では、今も人々が町家で普通に暮らしていて、住居は細長く、前の方でナリワイをして後ろで暮らすという形で、地域の皆さんのコミュニケーションがスムーズです。そのカギは「ナリワイ」であると感じ、郡上八幡の町家を参考に、「ナリワイ×暮らし」を今回のプロジェクトに取り入れようと考えました。細長くて両隣に家があるという町家の形状も東京のアパートにぴったりだと思いました。
1階は商売をこれから始めたい方たちをターゲットに、「しっかりナリワイ 」というテーマで店舗+住宅にして、前面に店舗 を持ってきています。ここは第一種低層住居専用地域ですので、1戸当たり約8㎡が店舗にできます。2階は副業を行いたい方をターゲットに、「ちょこっとナリワイ」というテーマの1戸約37㎡の専用住居です。前面部分をアトリエとして、廊下に大きな 窓を付けて、皆さんがやっているナリワイ自体を外から見ることができるというコミュニケーションの取り方を考えました。1階真ん中にキッチン・トイレのある1戸分の共用スペースを提供し、入居者皆さんで利用していただけます。そこにDIY工具を置いて、何かあったときに自分たちで修繕できるようにしています。また、建物前面にもともとあった駐車場をつぶして広いデッキにして定期的にここでマルシェを開いています。
入居者との約束事は、「清掃は自分たちでする自主管理」「定期的にマルシェを開催し、可能な限り参加」「1階は週4日以上の営業」「2階は窓に自分たちの活動を展示」「住宅街なので夜遅い営業はなし」だけで、あとは皆さんの好きにやってくださいということで募集をかけました。つばめ舎建築設計が設計と運営、私たちスタジオ伝伝で企画と不動産、オーナーの三者がお互いの領域の中でフォローしプラスし合いながら、できることをとことんやろうということで始めました。
どういうナリワイの方に入っていただきたいのか、生活シーンを想定して、家具レイアウトや店舗設計の例を示したスケッチを全13戸それぞれについてつくりました。入居する方はこれを参考にレイアウトを考えた方も多いようです。
入居者が決まってから、つばめ舎建築設計が1年間管理を担当しました。入居者が自主管理をするといっても、どうすれば良いのか皆さんわからないと思いますので、DIYの方法を教えたり、ナリワイに欠かせない看板を一緒に作成したりしました。皆さん最初はお互いに顔も知らないところから入っていますので、月に1回食事会を開催し、交流の機会を設けました。
マルシェをやる際、普通はこのような住宅地だと近隣からクレームが来たりしますが、オーナーが周辺を1軒ずつ説明に回り、オープン当初から地域の皆さんに受け入れられて、今では遠方からも定期的に通ってくださる人がいます。最近ではだんだん入居者が自主的に地域の人たちと繋がるイベントを開催するようになってきました。
1年経って、さらに次のステージに合わせたような2件目の「ナリワイ×暮らし」の建物を検討しています。

講評

賃貸アパートが街の中で結構埋もれている中、新しい住み方の提案を非常に巧みな方法でやっているのが面白かったです。設計者たちが1 年後まで関わっていることで、住人の生活が成熟していくところを見守っていたことも見て取れました。住まい方を提示することで、この街に活気や生活の楽しさをわかりやすく示せたことが、評価するところだと思います。暮らしている人たちがとても楽しそうだったのが強く印象に残っています。

ちょうど今から10年前の2010年に、横浜国立大学の助手をやっていたときに山本理顕さんと昨年グランプリを受賞された仲俊治さんと行っていた地域社会研究会でこのようなコミュニティのスケッチを描いていました。コミュニティに対して意識が高い学生の卒業設計などでもそのような絵をよく見ますが、それが実現できていることにとても驚きました。設計者が積極的にここに関わっていこうというスタンスが見えたのが、非常に新しいと思いました。

環境への負荷は、建設行為そのものもたいへん大きいので、取り壊すことを回避し、古いアパートがまったく新しい形でよみがえったことは、価値ある仕事だと思います。また社会資本の長寿命化という意味でも十分に環境的な取り組みだといえます。また今日のプレゼンにも象徴されていますが、設計者が説明しなかったのは初めてではないでしょうか。慣習的に踏襲されている従来の賃貸の仕組みを壊し、新しい仕組みづくりを行ったことも、環境負荷軽減という観点ですごく意義があり、素晴らしいと思いました。

ここ50年ほどの著しい開発で、個別の家だけで完結する設備が可能になりました。しかし、そうではない答えの可能性を見出そうとしているわけですが、こういったことも含めて「設備」として捉えなくてはならないと思いました。

パネルディスカッション

準グランプリ・グランプリ受賞作の2作品を通して考える「環境デザイン」について、お話しいただけますか。

環境性能が表には見えないけれども、結果として環境性能を含めた空間の質が上がっているような気がしました。

私たちが暖かい、涼しいと感じるのは空気の温度湿度よりもまずは表面温度によりますので、設計者の方にはぜひそのことを照明の照度と同様に捉え直すことにチャレンジしていただきたいと思います。
表面温度について説明すると、冬、私たちは天井や壁や床の全体としての平均温度に応じた放射に晒されています。冬に空気の温度を上げて気流が大きめになると、身体から熱が逃げやすくなります。ですから穏やかに放射で熱を逃がせるような空間は表面温度で決まり、冬では20~22℃くらいの範囲内であればいいと思います。夏は、表面温度の平均値を外気温より1~2℃低めにできれば涼しく感じます。冷房温度の常識は28℃ですが、それは空気の温度なのです。表面温度の高い蛍光灯などからの放射熱を浴びていると冷房の設定温度をもっと下げなければなりません。表面温度が低めならば空気の温度は高くても良いのです。夏、緑豊かな公園の木陰では、外気温は決して低くありませんが、土の温度も葉の温度も外気温より少し低いから風の流れを涼しく感じるのです。

この2作品は、甲乙付けがたかったのですが、改めて見ても2つが抜きん出ていたと思います。それは設計者や住まい手に主体性を感じたからです。「欅の音terrace」はもちろんですし、「K2 house」でも、ここが気持ちいいとか、この窓をこうやって開けたらいいとか、家を住みこなしていこうという住み手の主体性を感じました。

「欅の音terrace」は小学校に面しているという立地が生かされ、子どもたちが学校帰りに気軽に立ち寄る場所になっていましたし、そういう地域の魅力をあの建物によって引き出していると思いました。
「K2 house」の前面道路は最初、「狭くて車も通るし、歩くのも快適でないな」と感じたのですが、家の中に入ってみると、通りとの距離の取り方が絶妙で、むしろ道空間を快適な環境に転換しているようでしたし、風環境も、ビル風がうまくいなされて繊細に感じられました。どちらの作品も周りの環境に対する観察が非常に丁寧になされていたと思います。

両作品を通じて、建築設計への課題や期待をお聞かせください。

日本独特の世界感をどう海外に発信していくのかという視点でも、2作品はとても示唆に富んでいます。昔から日本は村的な都市のつくり方をしていたわけで、そういった意味で「欅の音terrace」のように今は失われた昔の大家さんと店子の関係を作り出すことを、環境やエネルギーの心地よさをどう表現するかを含めて考えていくと、非常に大きな世界に広がる可能性があるかもしれません。またそういったことを打ち出していく建築家が必要なのではないでしょうか。

僕は建築環境の専門家ですから数値を扱いますが、自分でフラストレーションが溜まるのは、「数値」ではなくて「数字」を扱っている人が多いことなのです。「数値」は「数字+価値」だと思います。数字だけの話だと、どんどんつまらなくなりますから、それを良い意味で壊さなくてはなりません。
この環境アワードにずっと関わってきましたが、数年前までは換気のことを質問されたとき、数字で答えていました。それが今は僕の中で数値になってきている感じがあります。ですから皆さんもご自分の感性と数値に基づいたイメージをどうやって言葉にしていくことができるか、またその訓練をどれだけできるかが、作品としていいものが現れるかどうかを決めていくような気がします。

数字から数値の話にするには、シミュレーションや断熱性能の数字だけではなく、そこに自分の身体感覚を重ねてものを見て、価値に変えていくことがきっと重要なのでしょう。
20世紀の日本は欧米を目指してきましたが、これからは気候の近いアジアを目指していくことが重要になってくるのではないでしょうか。もちろん断熱性能や気密性能は重要ですが、蒸し暑いアジアでは昔から風通しが重要視されていました。2作品とも風通しの良さ、コミュニティにつながっているところが共通していて、日本がもともと持っていたアジアの気候風土で培ってきた感覚を、うまく生かして質に変えていくことが、改めて重要だと痛感しました。

人と人とがどう繋がるかを考えるときに、その間に介在するものをどうデザインするのかが非常に大事です。同様に、人間と自然環境との関わりにも、何か「道具」が介在することでより豊かな関係性を築くことができると思いますが、建築はその最適な「道具」の役割を果たすと思います。
もう1つ今後の環境性能について。いま東大でさまざまな国の人が約1,000人一緒に住む国際寮が完成しました。当然出身地が違いますから、何が快適か、その基準も1つに収束しません。むしろ環境にムラがあった方が快適だとも言えるわけです。これまで環境というと、なんとなく皆が理想とする最適解が前提にされていたと思いますが、そうではない時代・社会のあり方に突入しています。多様な背景を持った人たちが、自分なりの方法で自分にとっての快適な場所を見つけていく、それはこれからの時代の住空間のあり方を考えていくきっかけになると思います。

審査員の皆さまのお話を、会場にいらっしゃる皆さまの活動の参考にしていただければ幸いです。本日はありがとうございました。

Photos:大倉英揮